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私が生まれて初めて体にメスを入れた疾病が、今回ご紹介する自然気胸です。その耐え難い激痛は今でも忘れられません。一般にはなじみが薄い病気かもしれませんが、若い男性に目立ち再発も多いとされます。体験談が何かのお役に立てれば深甚です。

<プロフィール>

【イニシャル】Y・O

【年齢(性別)】50代(男)

【発症年齢】30歳

【出身】福岡県

【肩書き・職業】会社員

1)ある日突然の発症!私の症状とは?

【1】右胸に徐々に広がる痛み

私は当時30歳になったばかり。体力もやる気も旺盛。男性としては仕事でもプライベートでも脂の乗り始めた年頃です。

ある日関係先を外回りしている最中、ふと左胸の上部に違和感を覚えました。押すと少しピリっと痛さが。この時はまだ「筋肉痛か何かだろう」とさほど気にも留めませんでした。ところが2、3日経っても痛みは和らぐどころか徐々に深まっていきます。歩いているときや上を向いたり背を反らすとより強くなります。

4日目。ついに椅子に座ることも苦しくなり、お辞儀するようなうつぶせの格好でないと耐えられなくなりました。「どうした? 大丈夫か」と心配する職場の同僚を苦笑いでごまかしながら、その日は何とか自宅に帰り着きました。夜遅く、痛みはさらに増加。とうとうお辞儀の姿勢でもダメになり、正座してひれ伏す、何か宗教の祈りのようなポーズでしか我慢できなくなりました。

【2】「焼け火箸を刺したよう」

横や上を向くとただちに激痛が右胸に走ります。表現が適切か分かりませんが、真っ赤に焼けた火箸を胸の内側から突き刺しているとでも言ったような、これまでに経験したことのない痛みです。

もちろんその夜は、その奇妙な姿勢のまま微動だにできません。食事もとらず、フーフーうめきながら脂汗を垂らし、一晩を一睡もせずに明かしました。妻も心配し「救急車呼ぼうか」と顔をのぞき込んできますが、私は恥ずかしさもあり、薄ら笑いで「大丈夫、大丈夫。明日は土曜日だけど朝一で病院に行ってみるよ」と強がるのが精一杯でした。

【3】呼吸音やX線ですぐ診断

翌朝、近所の市立総合病院へ。立っているのもつらく、ましてや歩くのはかなり至難の業です。前かがみの変な姿勢でのろのろ進む私への視線に恥ずかしさも感じましたが、あまりの痛みに体裁などどうでもよい状況です。「とにかく早くこの痛みを止めてくれ!」という一心で内科に並びました。

医師は主訴を聞き、胸を触診しながら「肋間神経痛かな」とつぶやいていましたが、聴診器を胸に当てた途端「あ」と声を漏らしました。「ともかくX線撮影をしましょう」。呼吸音で思い当たったようです。しばらく後、再び診察室でX線写真を見た医師は、私にも示しながら「気胸ですよ、ほら」とその部分をペンで指しました。

通常胸部のX線写真では、両肺には全体にぼんやり白みがかった細かい線が見えます。ところが私の写真では右胸の上半分が真っ黒になっており、下半分には白いものが折り重なったように映っています。どうやら風船に穴が開いて破裂したように、肺がつぶれているようなのです。

パソコン画面を確認している医者とナース

2)自然気胸の原因と治療

【1】風船が割れた状態

肺は正常時、文字通り風船のように空気を吸いふくらんでいます。肋骨で囲まれた「胸腔」にぴったりと隙間なく収まっているのが普通の状態です。しかし肺の一部から空気が漏れて胸腔内にたまると、肺自体は空気に押されて縮んでしまいます。これが気胸です。肺にある「ブラ」と呼ばれる小さな空気袋のようなものに穴が開くことで発生します。

穴が開く原因はさまざまです。交通事故などの外傷で肺に異物が刺さったりすれば当然開きますが、これは外傷性気胸と呼ばれます。これに対し肺がんなどの別の病気の影響や、特に原因が分からないのに起こるケースは自然気胸と呼ばれます。私が今回罹患したのは後者です。

【2】若いやせ形男性に多く

病気による自然気胸は高齢者が中心ですが、原因不明のものはむしろ若い世代に多いとされます。研究では10歳代~30歳代によく見られ、かつやせ形で背が高く、胸板の薄い男性に顕著に発生するそうです。私の体型も近いといえます。

自然気胸の直接的原因や発生の仕組みは依然研究段階のようですが、こうした患者の統計的な特徴から、スリムな若い男性の成長の早さに肺が何らかの物理的影響を受け、穴が開きやすいのではないかとの見方もあるようです。

症状は胸の痛みや呼吸困難、咳など。重篤な場合ですと気胸が広がりすぎて心臓を圧迫したり、肺静脈を押して血流が滞り、血圧低下でショック症状を起こすこともあります。気胸が両肺同時に起こることもあるそうです。こうした場合では生命に危険があるため緊急な処置が必要になります。

【3】病気の度合いで変わる治療

市民病院の内科医は「すぐに入院が必要です」と告げ、私は呼吸器外科に回ることになりました。これまで入院の経験がなかった私は「そんなに大変なのか」と少なからず慌てました。

気胸の治療は症状の重さによっていくつかの段階に分かれています。最も軽い場合、即ちまだあまり肺が縮んでいないときなら、入院せず自宅で1~3週間ほど安静にして自然回復するのを待ちます。しかし私のように激しい痛みや呼吸困難などを伴う場合はまず例外なく入院するようです。そして肺の状態に応じて治療具を装着したり、手術を選択したりします。

3)手術を決断。完治急ぐ

【1】肺に管を通す

私はガウンのような患者服に着替えた後、歩くのがつらいので車いすに座り、看護師に押してもらいながら病棟に案内されました。患者6人が入る大部屋の一角です。まもなく担当の外科医が現れ今後の治療方針の説明を受けました。

それによるとまず「胸腔ドレナージ」という治療を試します。これは胸腔内にたまった空気を外に排出することで、縮んだ肺を元に戻そうとするものです。しばらくこれを実施して、それでも戻らない場合は手術になるそうです。

早速手術室に入ると、右胸を上に横になり、脇の下に局所麻酔が注射されました。しばらくして感覚がなくなったところで医師が胸に針を刺し、管を挿入。その管の反対の先端を透明な30センチ四方ほどの弁当箱のような容器につなげます。これは「チェストドレーンバッグ」といい、胸内部の空気を取り込み逆流しないようにつくられています。

管をつなげた状態で片手に持ち、トイレや買い物に行くなど移動することが可能です。4、5日ほどこの状態を続け、いったん管を抜いて肺の状態を確認します。空気を抜いたので肺はほぼ元通りに膨らんでおり、1日たってもそのままなら治癒というわけです。

【2】胸の手術へ

ところが私の場合、肺はまた縮んでしまいました。再び管を入れて2、3日待ち状況を見ましたがやはり肺はふくらみません。医師は「手術しかありませんね」と話し、具体的な方法を説明しました。

気胸の手術には胸腔鏡を使うものと開胸手術の2種類があります。目的は原因となっている破れたブラを除去して縫合することです。胸腔鏡手術では胸の3カ所にそれぞれ長さ2センチほどの穴を空け、照明付き小型カメラや肺を切る道具などの特殊な器具を入れて、モニターの遠隔操作でブラを取ります。手術痕が小さく痛みが少ないメリットがあります。

開胸手術は胸を10センチほど大きく開き肺を露出させて行います。以前は胸腔鏡手術では再発率が高いという問題点もあったそうですが、現在は手法の改良などで改善されているとのことです。

【3】長引く入院に焦り

私が入院した病院では開胸手術しか行っておらず、担当医はそれでも受けるか、あるいは転院するかの選択を求めました。当初の激痛はドレナージ後には和らいだものの、それでも痛みは残っています。私は早く痛みから解放してほしいと迷わず手術に承諾しました。

これ以上長々と入院することに耐えられない思いもありました。まだ若く仕事でもアピールしたい盛り。既に1週間以上会社を休んでいることもあり、1日も早く退院したい気持ちが募ります。医師によると開胸手術でも翌日には歩くことができ、経過良好なら1週間で退院できるとのことでした。

3日後、手術は全身麻酔で行われました。2時間ほどで終了し、病室で目覚めましたが、胸がズキズキ痛みます。やはり開胸手術では痛さは仕方ないようです。確かに翌日にはトイレなどに立つこともできましたが、痛みは数日間続きました。

ただ医師の話では、ブラは完全に除去できX線やCTの撮影でも肺は元通り回復しているとのこと。微熱が続いたため予定よりやや延びましたが、入院から17日目で晴れて退院の運びとなりました。

医療検査

4)治療中の温かい周りの支援に感謝

【1】頭が下がるサポート

急な入院・手術となったため、妻にはとりわけ苦労をかけました。まだ生まれて間もない一人娘を実家に預け、家に一人きりで心細い中、2日1度程着替えなどをこまめに運んだり身の回りの世話をしてくれました。

また職場の同僚も温かく見舞ってくれました。大学の空手部時代に何度も骨折で入院した経験のある先輩は、「入院生活は退屈だから、見舞いは花なんかよりこっちの方がいいよな」と、大量の菓子類や雑誌などを買い込んでくれました。細かい気遣いに頭が下がる思いでした。

【2】「いざ」への備えも重要

さて治療費の方ですが、医療保険や高額療養費の制度が適用となり、差額ベッド代や10万円ほどの手術代はほぼまかなうことができました。会社や、加入している労働組合からの見舞金も日々の入院生活の助けになりました。保険はこれまで使ったことがなかっただけに、やはりいざというときには頼りになるものだと認識を新たにしました。

5)再発に不安も・・貴重な闘病経験に

自然気胸とは原因が不明で、不摂生な生活によるものでも、無謀な運動によるものでもないという点が、ある意味で不思議な病気です。それだけに予防といっても難しいのですが、統計上「再発する患者が多い」という点は大変気になりました。

その後もふとした折に「何となく胸に痛みがあるなあ」と感じると、あの激痛の思い出が蘇り、あわてて病院に駆け込むことも何度かありました。いずれも取り越し苦労に終わり、幸いこれまで再発はなく過ごすことができています。

病気とは、どんなに気をつけていても、いつ何時、どんな形で襲ってくるか分かりません。規則正しい健康な暮らしを心がける一方で、万が一の時にも慌てず冷静に対処する心構えが必要です。それができたという意味で、今回の経験が私にとって非常に貴重なものになったことは間違いないと、今は感じています。

まとめ

【1】自然気胸は空気が漏れ肺が縮む病気

【2】痛みや症状があればただちに入院

【3】まずは空気を排出する「胸腔ドレナージ」

【4】症状が重い場合は手術を選択

【5】入院から2~3週間ほどで退院可能

【6】再発が多いため、治癒後も注意を

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